打撃コーチの仕事。スランプの選手にどう対応するべきか。石井琢朗「タク論。」
広島カープ・石井琢朗コーチの野球論、第二回
■.打撃コーチとして伝えたいのは失敗した経験
これはあくまで僕の考えですが、打撃コーチとしての仕事を次のようにとらえています。
打撃の技術を指導することとゲームに勝つための打撃をすること。その手段はつねに「意識」が中心になる。
技術の指導をするにあたって気をつけていることは強要しないこと。でも、引き出しはたくさん与えてあげる。どれをチョイスするかは選手です。
はっきり言って、バッティングに正解はありません。 方法(理論)はたくさんあるし、多少の確率を上げることはできるけれど、絶対はないんです。だからバッティングは難しい。僕にしても、いくら「2000本」を打ったからと言っても、それ以外のほとんどは失敗です。そしてその、数多くの失敗こそが、今の僕の強みであり支えになっています。攻撃に関しては、いかに成功したかという成功論より、どうして失敗したかの失敗論の方が役に立つんです。
失敗は成功のもと。
失敗から何を学び、またそれを今の攻撃にどう生かすか。 そこに、どう意識を持って行くかーーこれが重要だと思います。
ですから僕は、例えば調子を落とした選手に接するとき「肩の開きが早いよ」とか「上体が突っ込んでいるよ」というような技術的指導をするべきか、それとも「意識」のレベルで改善できるのかを考えます。この場合の意識はメンタルとも置き換えることができますが、こと一軍のレギュラークラスの選手に対してはほとんどの場合が「意識」「メンタル」の問題だったりします。
というのも、そもそもプロになるレベルの選手たちですから、小さい頃から長年作り上げてきた基礎はあるわけです。もちろんそれは全員が全員できているわけではないですよ。ただ一軍のレベル、いまのカープで考えれば、ある程度できあがっている選手がそろっています。そんな選手たちが「肩の開きが早い」であったり「上体が突っ込む」だったりするのはなぜだと思います? 一般的には、技術的な改善が必要だと思われる状態になる理由です。
■.「自分でそうしている」
僕は「自分でそうしてる」という理由が多いのではないかと思っています。
肩の開きが早くなっている。それまでは開かなかったのに、早く開いてしまう状態に「自分がしている」。打てていたときと違う形に「している」。
裏側にあるのは「メンタル」であり「意識」です。「インコースが気になってしまった」「詰まりたくないから」とか、それこそ「苦手意識を持っているから」肩の開きが早くなってしまう。上体が突っ込む場合は、打ちたいという気持ちが強過ぎる……。結局、自分の気持ちがそういうコントロールをしてしまっているわけです。
だとすれば、この選手の不調は「意識」のレベルで改善できる可能性があります。そういうときは、外見的な部分でなく、内面的な部分、いわゆるメンタル的な部分をフォローをすることで技術を取り戻してもらうのが僕の仕事になるわけです。